研究計画

 研究方法は大きく3つの段階に分けられる。

 第1段階は、TRAPS疑い患者の調査、同定、第2段階は、遺伝子解析による確定診断であり、第3段階は臨床症状、検査値、患者リンパ球の機能異常の解析結果と遺伝子解析結果を照合し、診断基準を作成する(研究概要の項、流れ図を参照されたい)。
第1段階は、原因不明の発熱(3回以上、規則性は問わない、38.5℃以上)とCRP,血沈の異常を呈する患者の有無、有りの場合はその患者の発熱の期間や程度、関節痛、皮疹、筋肉痛、結膜炎、漿膜炎の有無、年齢、家族歴、臨床検査値、などの情報を得るための調査票を作成し、全国の病院に送付する(堀内)。この場合の回答率は50%程度と予想されるため、本研究では別の厚労省研究班や日本小児リウマチ学会、成人スチル病研究会を通じてよりきめ細かくTRAPS患者を掘り起こす。とくにベーチェット病、成人スチル病、若年性特発性関節炎(JIA)はTRAPSと症状や検査所見に類似点が多く、これら疾患の疑い例にはTRAPS患者が紛れ込んでいる可能性があるため重点的に検討する。当研究班の班員の役割分担を列挙する。石ヶ坪教授(横浜市立大学)は、厚労省「ベーチェット病に関する調査研究班」班長の立場を生かし、ベーチェット病患者でのTRAPS調査票配布ならびにTNF受容体遺伝子異常を解析して、典型的ではないベーチェット病患者の中にTRAPS患者がいるか探索する。武井教授(鹿児島大学)は日本小児リウマチ学会運営委員長であり、学会として本研究班と連携して小児でのTRAPSの調査を行う予定であり、小児TRAPSを本邦ではじめて報告した楠原教授(産業医科大学)が協力する。またJIAについては学会として可能な限りTNF受容体遺伝子異常を検討する。集めた検体は私どもで遺伝子解析する。高橋准教授(札幌医科大学)、蓑田教授(自治医科大学)、藤井准教授(京都大学)は成人スチル病研究会のメンバーであり、成人スチル病症例を集積するとともにTRAPS調査票の検討、遺伝子解析のための検体収集を行う。検体については私が解析をおこなう。鷲尾教授(聖マリア学院大学)は、厚労省「特定疾患の疫学に関する研究班」にも所属しており、専門の疫学、統計学の立場から、後述する第3段階の診断基準の作成に参画する。

 第2段階は、集積したTRAPS疑い症例について分子診断をおこなう。TNF受容体1型の遺伝子解析が現時点では最も有効であり同意が得られた検体について積極的に検討する。TRAPSの症状を呈しながらもTNF受容体1型の異常を認めない場合には、TNFのシグナル伝達にかかわるほかの分子について異常が存在する可能性がある。具体的には、構造の類似したもう一つのTNF受容体であるTNF受容体2型やTNF受容体の下流にあるTRAF、TRADDなどについて遺伝子異常を解析して、新しい原因遺伝子を解明する。また欧米に健常人には2〜3%の頻度で認め炎症性疾患のリスク因子の一つとされるTNF受容体1型の異常(R92Q, P46L)について、当科で保有する9,000人の健常人DNAを用いて日本人での頻度を明らかにする。なおこれら健常人DNAについては、厚生省「がん特」旧渋谷班から供与を受け、九州大学倫理委員会にて承認済みである。遺伝子解析にあたっては、九州大学大学院病態修復内科学分野ならびに九州大学生体防御医学研究所において我々が構築してきた遺伝子解析システムを用いて行う。

 第3段階は、TNF受容体1型に異常を認めTRAPSと診断できた症例について、発熱、関節痛、皮疹をはじめとした臨床症状の特徴、合併症や予後、家族歴、検査所見、血清サイトカイン値のプロファイル、遺伝子解析結果から、診断基準を作成する。従来補助診断として使われることもあった血清の可溶型TNF受容体1型の低下の妥当性も検討する。さらにTRAPSの病態、発症機序がほとんど不明であるため、患者PBMCを用いて細胞生物学的に検討を加え、炎症が生じる過程を明らかにする。
研究期間1年間であり、流れ図に青色でマークしたところを重点的に研究する。

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